チェロのチューニングの仕方が分からない方へ
「初心者の壁」ともいわれるチューニング。毎回、練習の前に行うチューニングがなかなか決まらない、という人は、かなりの数にのぼります。
時間がかかると練習時間が減るから、という理由で、適当なまま、練習に入る人もいます。しかし、チューニングがきちんとできていないと、実際にうまく弾くことはできませんし、いつまでたっても耳を育てることもできません。これではせっかくのチェロも、楽しむことはできません。
ここではチューニングのやり方を徹底解説します。慣れれば意外と簡単に、ピタッと音が決まるので、ぜひ試してください。
チェロをチューニングする目的とは
チューニングとは何か? チューニングが合っていないとどうなるのか?
宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』の中で、金星音楽団の指揮者がゴーシュに向かってこんなことをいう場面があります。
「セロっ。糸が合わない。困るなあ。ぼくはきみにドレミファを教えてまでいるひまはないんだがなあ。」(『セロ弾きのゴーシュ』青空文庫 https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/470_15407.html)
ここで指揮者が「ドレミファ」と言っているのは、ゴーシュの音が「ドレミ」(音階)の音から外れている、つまり、ほかの楽器の「ドレミ」と合っていない、チューニングができていない、と言っているのでしょう。
オーケストラではオーボエのA音(基本的に440Hzと決まっている)に、すべての楽器のA音を一致させます。現場では、チューナーなど使わず、耳で基準音と自分の楽器の音を合わせます。高さがそろえば、たとえばベートーヴェンの交響曲第五番の冒頭の「ダダダダーン」のように、同じメロディをいくつもの楽器が同時に演奏しても、それぞれの音が重なり合いながら、濁りのない、まるで1つの音に聞こえるのです。ところがこの中で1台でもチューニングが合ってない楽器が混ざっていれば、どうしても音が濁って聴こえてきます。
「プロでもないかぎり、聴き分けられないよ」と思うかもしれません。しかし実際には、音楽になじみのない人でも「何か気持ち悪い」という風に、かなりの精度で感じ取れるものなのです。というのも、人間の脳は、音楽を聴くとき、その音楽を成り立たせている法則を感じ取り、そこから外れている音を「不快」に感じ取る、という仕組みが備わっています。太古のころから、風の音や動物の鳴き声に異変を感じ取ったDNAが、現代に生きる私たちにも残っているのです。そのため、脳内にチューナーがなくても、人間の脳は無意識のうちに、1台の楽器の「ずれ」を感じ取ることができます。
では逆に、なぜゴーシュは自分がずれていることに気がつかないのでしょうか。それは、ゴーシュがチェロを弾くのに一生懸命な段階にとどまっているからです。ゴーシュの脳は、チェロを弾くための身体のコントロールに意識が集中してしまっており、ピッチが合っているかどうかまでは回りません。もっとチェロを弾く経験を重ね、自然な動き(脳が命令しなくても、身体が正しく動ける状態)ができるようになることで、初めて音の高低に意識が向くようになるのです。
このようにチェロを始めて間がない人は、楽器を構えたり、弓を持ったりすることに一生懸命になってしまい、チューニングの段階でも、なかなか音に集中できません。しかも、基準となる音が、まだ脳内にしっかりと刻み付けられていないため、ずれているのかいないのか、ずれていたとしても高いのか、低いのか、わからなくない、という状態になっています。
練習の時でもチューニングは大切
練習なのだから、チューニングは適当でもいいのでは? と思うかもしれません。しかしチェロは、ピアノのように「この鍵盤を押さえればドの音、この鍵盤を押さえればレの音」と音が決まっているわけではなく、自分の耳で聴きながら正しい音程を作りだしていく楽器です。そのため、ふだんから自分の出している音をしっかり聴き、そのピッチの良し悪しを確かめながら弾く習慣が、絶対に必要なのです。
練習をする中で、ゴーシュが次第にチューニングを聴き取る耳を育てていったように、私たちも耳を育てていきましょう。そのためにも、自分のレベルに合った方法で、毎回のチューニングを行っていくことが大切です。
チェロのチューニングの順番について
オリジナル画像
(※改変後の使用が許可されたもの)より作成(下の写真も同様)
チェロの弦は4本あり、向かって右からA(アー)線、D(デー)線、G(ゲー)線、C(ツェー)線と並んでおり、左に行くにしたがって、低く、また弦も太くなっていきます。どの音から合わせなければならないという規則はありませんが、通常は高いA線からスタートします。
ペグを使ったチューニングとアジャスターを使ったチューニング
チューニングには、ペグを使ったチューニングと、アジャスターを使ったチューニングがあります。ペグは、チェロの弦を上方向に引っ張り、アジャスターは弦を下に引っ張っています。ペグでおおまかなところを合わせ、アジャスターで微調整する、というのが、一般的なチューニングのやり方です。
ただ、ペグの回し方にはコツがあり、うまく回せなかったり、固定できなかったり、逆にまた、回しすぎて弦を切ってしまったり、ということもあります。初心者にとってペグを回してのチューニングは、特に難しく感じられるかもしれません。
また、初心者の場合はスチール弦を使うことが多いのですが、スチール弦をペグでチューニングするためには、微妙なところが合わせづらいのです。そのため、最初のうちはアジャスターを使ってのチューニングに慣れておく方がいいでしょう。
反面、アジャスターでばかりチューニングしていたのでは、いつまでたってもペグによるチューニングを覚えられないため、慣れてきたらペグを少しずつ使うようにしていきます。
ここではアジャスターとペグの両方を使ったチューニングを紹介します。
【チューナーを使ったチューニング】
①チューナーの電源を入れて譜面台に置く
電源を入れ、チューナーをAに合わせて譜面台に置きます。譜面台の上に載せると、メーターが見えやすいので、楽にチューニングができます。
②アジャスターをゆるめる
チューニングは最初に音を低くしておき、そこから少しずつ上げていくやり方で合わせます。そのために、最初にアジャスターのねじを、4つともすべて左に回してゆるめます。アジャスターのねじは、
左回し→ゆるむ(弦の音が低くなる)
右回し→きつくなる(弦の音が高くなる)
と頭に入れておきましょう。
③A線を弓で弾く
弓を勢いよく動かすと音程は高くなり、スピードが遅いと音程は低くなります。そのため、ボウイングが安定しないと、チューナーの針は大きく振れてしまい、正確にチューニングすることができません。そのためには、できるだけ圧の少ない、均一な音を出すように心がけます。
最初に右手の力が抜けた状態(幽霊が「うらめしや~」というときの手つき)で軽くつまむイメージで弓を持ちます。そして息を吐きながら、できるだけ軽く、すーっと弓を引きます。弓の毛のごく一部が弦をすべるイメージです。チューナーの針を見ながら、できるだけチューナーの振れ幅が小さくなるような弾き方を工夫してください。
④ペグを回して合わせる
音の高さが大きく違っているときは、ペグを回します。左手でネックをしっかりと支え、右手でペグを内側に強くねじ込むようにして回します。ペグは
向こう側に回す→きつくなる(弦の音が高くなる)
手前に回す→ゆるむ(弦の音が低くなる)
と覚えておきましょう。
ペグを回すときは、左手の親指で弦をはじきながら、チューナーで音の高さを確かめます。ペグでの調整は、音を聞きながら行わないと、弦を強く張りすぎて、切ってしまうことがあるからです。
ペグを回すときは、最初から上げるのではなしに、いったん下げて、そこから少しずつ上げます。上がりすぎたと思ったら、もう一度手前に回して下げ、また上げる、を繰り返します。「やや低い」ぐらいのところまでペグを回したところで、ペグをさらにグッと内側に押し込んで留め、あとはアジャスターで調整しましょう。弓で弾いてみて、針が中心を指し、緑のランプがつけば、チューニングができています。
⑤D線をチューニングする
チューナーをDに合わせ、D線を弓で弾きます。大きくずれているときはペグを回し、少し低いかな、というところで止めて、アジャスターで微調整を行います。
同様にG線、C線もチューニングしていきます。
【チューナーの音を聴いて合わせるチューニング】
チューナーを見ながらのチューニングに慣れてきたら、次のステップとして、音を聴いてチューニングをするやり方を覚えていきましょう。音を聴きながら調弦できるようになると、1弦ずつチューナーでチューニングしなくても、最初のA音をチューニングしただけで、あとは自分の耳で調弦することができるようになります。手始めに、音の出るサウンドアウト機能つきのチューナーを入手します。
①チューナーでAの音出す
この音をよく聴いて、頭の中に留め、自分でA線を弾いてみます。ペグとアジャスターで調整しながら、頭の中にあるA音に近づけます。
②チューナーで自分の音を確認する
自分の音が高いのか、低いのか、どのくらいずれているかをもう一度、音を出しながら確認します。こうやって「聴く→弾く→確かめる」のステップを踏むことで、自分のクセを把握することができます。
同様の手順でD線、G線、C線と、一弦ずつチューニングを行います。
【5度の音を聴きながら合わせるチューニング】
音を聴きながらのチューニングに慣れてきたら、次のステップは2本ずつ弦を弾きながら、耳で合わせるチューニングを身につけましょう。これができるようになったら、ピアノの音や、ほかの楽器と合わせることができます。
①チューナーを使ってA線をチューニングする
チューナーの音を聴いて、A線を合わせ、合っているかどうかチューナーの針で確認します。
②A線とD線の2本の弦を弾いてDを合わせる
隣り合う弦の響きに耳を傾けます。D線はチューニングができていないので、最初は濁って聴こえるはずです。ペグを回しながら、5度の和音が澄んで聞こえてくるように、ペグやアジャスターを使って調整します。最初はわからなくても、ピッチを少しずつ上げながら、音の響きがだんだん良くなっていくのを感じてください。
③Dの音をチューナーで確認する
チューニングが合っていなければ、アジャスターを見ながら調整します。ここでも自分のクセを知ってください。
④D線とG線を弾いてG線を合わせる
つぎにD線とG線の2本の弦を弾いて、和音の響きに耳を傾けながら、Gを合わせます。
⑤G線をチューナーで確認する
G線のチューニングができたら、次はG線とC線を弾き、Cを合わせ、チューナーの針の振れを見て確認してください。
こうやって2弦ずつ合わせることを繰り返していくと、少しずつ耳も養われていきます。
チェロをチューニングするときの3つの注意点
チューニングがうまくできないのはいくつか理由があります。チューニングができないことに限界を感じてしまって、チェロをあきらめるのは、あまりにもったいないことです。自分がうまくいかない原因がどこにあるか、以下の3つの点に気を付けてください。
1. 基準となる音を体感できているか?
音を耳で聴き、自分のものにするには、自分でその音を声で出してみる(歌ってみる)のが一番です。ピアノなどでA(ラ)の音を弾き、それに合わせて「アー」と声に出してみます。声の良し悪しにこだわらず、できるだけ正確な高さの声が出せるように練習し、可能ならば録音して実際に聴きくらべてみましょう。そうやって正しい音程、基準となる音に「合っている」という感覚を、自分のものにします。
2. ボウイングが安定しているか?
チューニングは基本的に弓を使って行いますが、始めのうちは右手を安定させて動かすのもむずかしいかもしれません。安定したボウイングができるようになるまでは、チューナーの音を聴きながら、右手で弦をはじいて音を確かめながら、チューニングをしてください。
3. ペグをうまく操作できているか?
ペグを回すのには、かなりコツが必要です。固くてまわらない、止めようとしても止められない、回しすぎて弦を切ってしまう…。特に初心者のうちは、弦がブチッと切れてしまう瞬間は、怖く感じられてしまいます。
チェロのペグは、緩めるときも、締めるときも、押し込むようにして、少しずつ回すコツをつかんでください。特に力がいるのは回し始めだけなので、慣れれば、握力の弱い女性でも、問題なく回すことができます。
チェロ用のおすすめチューナー3選
チューニングを助けてくれる道具として、初心者にとって強い味方になってくれるのが、チューニングメーター(略してチューナー)です。チューナーが基準となる音を出し、チェロから出る音を認識して、メーター(針)で正しい周波数との差を表示してくれます。
チューナーといってもさまざまな種類がありますが、その中でもサウンドバック機能がついているものを選ぶことで、基準音の感覚をつかむことができます。
ここではその中から初心者にも使いやすく、長く使えるものを紹介します。
①KORG クロマチックチューナー オーケストラ向け OT-120(KORG)
別売りのチューナーマイク付きセットがおすすめです。
針の動きにばかり目がいきがちなチューニングですが、チェロのテールピースにマイクを取りつけ、チューナーのサウンドバックモードにすると、自分が出した音に近いピッチの基準音を出してくれます。基準音と自分の音を比較しつつ、合わせることで、耳とチューナーの針の両面でチューニングができます。また、純正律などさまざまな音律でチューニングができるために、今後、より純正な響きを求める場合にも対応できます。長く使っていける優れものです。
②ヤマハ YAMAHA チューナーメトロノーム TDM-700G(YAMAHA)
このチューナーもサウンドバック機能がついています。さらにこれはメトロノーム機能がついているため、チューニングだけでなく、練習でも使うことができます。
③KORG クロマチックチューナー CA-2(KORG)
ポケットサイズでサウンドアウト機能とメーター機能だけのシンプルなチューナー。コンパクトなサイズですが、音名の表示が大きく、見やすい構造になっています。単4電池2本で200時間使えます。チューニングに使うだけで十分、と考える人にはおすすめのチューナーです。
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