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観るだけで旅気分!?音楽映画で旅する!【東南アジア編】

# 映画&テレビ

投稿者 :山田洋路

音楽が重要な役割を果たす映画や、使用されている楽曲が印象的な映画の数々。良質な映画を1本観ることで、ともすれば学校で習ったり本で読んだりするよりも深くリアルに、その土地の歴史や文化を知ることができるでしょう。

今回のテーマは「東南アジア」です。東南アジアは、わたしたち日本人ともゆかりが深く、土地の魅力に取り憑かれる方も多い地域。かの地に根付く色濃い文化や、土壌となっている歴史についてもっと知るべく、映画を通して旅してみましょう。

東南アジアにまつわる作品を6本ご紹介します。それではご覧ください。

タイ『風の前奏曲』

タイに実在した楽聖のソーン・シラパバーレーンを題材にした物語です。映画では、「ラナート」という船の形をした木琴を演奏する者たちの、しのぎを削った戦いが繰り広げられ、まるで格闘マンガや青春スポーツマンガを観ているよう。

西洋音楽の音階とは違ったラナートの魅力に引き込まれ、最大の見せ場である、巨匠クンインとの競奏会を観終わったときには、劇中の観客たちと同様スタンディングオベーションを送りたくなるはずです。この映画を観るまで、木琴がこれほどテクニカルな楽器だとは知りませんでした。

本筋は、ソーンの成長譚ですが、並行して、国の民主主義化を背景に文化・芸術への規制が強くなり、それに苦しむ晩年のソーンが描かれています。欧米に侵略されまいと、中国でいう文化大革命がタイにも起こっていたことを知る人は意外に少ないかもしれません。そこで起こったことの無残さ、滑稽さを知る上でもとても参考になる作品です。

タイ『ザ・ビーチ』

東南アジアに、南国の自由な雰囲気を求めて旅したことある方も多いのではないでしょうか。レオナルド・ディカプリオ演じるリチャードもまさにそんな若者の一人でした。

タイ・バンコクを訪れてすぐに、自分の求めるものがないことに気づいたリチャードは、落胆して宿で休みます。ところが、となりの部屋に宿泊している男、ダフィと出会い、「楽園」の地図を手に入れたところから、物語が思わぬ方向に展開していきます。

海に浮かぶ未開の地には、自由を求めて集う若者たちが、すでにコミューンを形成しています。そこでは毎日快楽が得られ、現世を忘れて楽しむことができます。ただし、住人の快楽を邪魔しない限りにおいて…ということで、後半は少し怖い展開が待っています。

監督ダニーボイルは、『トレインスポッティング』でも見せた、整合性なしで一足飛びに進む物語展開をこの映画にも採用しています。音楽も、楽園のビーチや森の現実離れした美しさ、そこで楽しむパリピ(パーリーピーポー)のフワフワした精神状態をよく表したものが使われています。

モービーオービタルアンダーワールドエイジアン・ダブ・ファウンデイションといった残響感の強いクラブミュージックを多用。センチメンタルなシーンにはオールセインツシュガー・レイのビーチミュージックが効いていて、まさに、音楽が鑑賞者の精神作用に影響を与える重要な要素になっています。

タイ『バンコクナイツ』

次に紹介する映画は邦画ですが、やや異色の作品です。まずは作品を作った映像制作集団「空族(くぞく)」に少し触れておきましょう。空族は、富田克也氏と相澤虎之助氏から成るインディペンデント映像制作集団です。

毎回リサーチに時間をかけ、フィールドワーク形式で作品を作り込む空族ですが、この作品に関しては4年がかりでバンコクと日本を行きして撮ったとのこと。主役のオザワは富田氏自身が演じていますし、元恋人役ラックは現地でスカウトするなど、現地の人と知り合い、巻き込みながら映画を完成させているため、鑑賞者にとってはまるで現地で体験しているような、濃くて生々しい作品となりました。

「楽園」がこの映画のメインテーマですが、戦争の存在や、ラオス、カンボジア、福島といったバンコクと共通する構造を持った土地を意識させる表現が随所に出てきます。

生活費がままならず、物価の安いタイで怪しげなビジネスをして暮らす元自衛官のオザワは、偶然ラックと再会。ナンバーワンホステスのラックですが、母親や腹違いの弟との行き詰った人間関係や、一族の生活が彼女の収入で成り立っているにも関わらず、田舎に帰ると娼婦として軽蔑視されるという現実が描かれます。こうした現実から逃れるために、二人は桃源郷を求めてバンコクからイサーン(タイ東北地方)、ラオスへと旅に出る…という展開です。

バンコクナイツは、複雑なテーマが絡み合う映画ですが、実は、音楽のための映画といっても過言ではありません。劇中で使われる音楽は、「モーラム」「ルークトゥン」といったタイの伝統音楽や歌謡曲。なかでも重要となるのが、タイ全土で親しまれている大衆音楽「プア・チーウィット」というジャンルのものです。「生きるための歌」とも訳されるこの音楽には、社会情勢や体制に対して人々が抵抗を示す意図が含まれます。

他方で、伝統的な音楽と並んでEDM(エレクトリック・ダンス・ミュージック)ヒップホップなどが挿入されています。モーラムで使われる長い竹の笛「ケーン」を、DJ Kenseiらがサンプリングしてヒップホップに仕上げるなど、雑多な文化を表現した雑多な音楽が、日本人アーティストによって再発明されていて、音楽へのこだわりとセンスが感じられる作品です。

ベトナム『ミス・サイゴン』

もう一本、戦争娼婦を扱った作品を紹介します。娼婦とアメリカ兵の、ベトナム戦争下での悲劇を描いた大ヒットロングランミュージカルをそのまま映画化した「ミス・サイゴン」です。舞台のライブ感そのままに、音響はさらに迫力あるものとなっています。

ベトナム戦争で家族と家を失ったキムが、首都サイゴンに逃亡して生活のために娼婦となります。キムはお客さんとして出会ったアメリカ兵クリスと惹かれあいます。

クリスはキムをアメリカに連れ帰ろうとしますが、サイゴン陥落の混乱からキムを見つけられず、アメリカに一人で帰ることに。その後にクリスは別のパートナーと結婚、キムは13歳からの婚約者と再会しますが、キムにはクリスとのあいだにできた子供タムがいました。

これに逆上した婚約者はタムを殺そうとし、キムはそれを防ぐために殺人を犯してしまいます。罪人となったキムがバンコクに逃げるのですが、ホステスとして働いていたキムをクリスが探し当てることで、さらにショッキングな展開に…といったやや複雑な愛憎劇です。

この映画を観てミュージカルにハマる方も続出したようで、それには少なからず音響によるところがあったのではないでしょうか。歌声の合間のかすかな息漏れや、実物大のヘリコプターが登場するシーンでのダイナミックなプロペラ音などを臨場感いっぱいで伝えるために、こだわりの音響調整が随所で施されています。

ベトナム『青いパパイヤの香り』

同じくサイゴンを舞台とした作品ですが、この作品が取り扱うテーマはイノセントなエロティシズムです。10歳でサイゴンの資産家の家に奉公人としてやってきたムイが、献身に務めながらも身の回りのさまざまなことへの好奇心を育てていきます。

みずみずしく描かれる、パパイヤに代表される植物や動物、昆虫などの生き物。奉公先の子供たちとのヒリヒリするようなやりとり。裕福な家庭に内包されている「死」の存在。こうしたことものを見たり経験しつつムイは成長します。

後半で、ムイは新進作曲家の家に雇われるのですが、実は彼は前半でもムイの重要な好奇心の対象として登場していて、鑑賞者に今後のエロティックな展開を予感させています。

ここでのポイントは、ムイが表面的にはなにひとつ戦略的な行動をとっていないということです。作曲家側もいたって善良な精神の持ち主。さて、作曲家の運命を操作したものはなんだったのでしょうか…という映画です。

映画の音についてですが、特徴的なのは全編にわたって虫の声などの環境音が流れていること。ゆったりとした時間の流れを感じさせ、登場人物たちの無垢さを際立たせています。資産家の家の主人は昼間から部屋で琵琶を弾き、その脇で働いている10歳のムイとの身分の対比を感じさせます。また、作曲家が弾く、ショパンの「24のプレリュード第24番」は、自身の心の中の嵐を表現しています。

ベトナム『プラトーン』

オリバー・ストーン監督が、ベトナム戦争からの帰還後すぐに書き上げた脚本がもととなった作品です。上映当時、これまでの戦争映画にないリアリティ溢れる描写が物議を醸しました。

貧しい家庭の人ばかりが徴兵されることに義憤を感じたクリスが、大学を中退してまで徴兵志願。戦場が、想像をはるかに超える悲惨なものであることを目の当たりにするといったものです。

劇中では、激しい爆発や暴力がリアルに描かれ、なかにはかなり残酷なシーンもあります。奇跡的に生き残った兵士もいますが、彼らの心にも深い傷を残していることがわかります。

さて、オリバー・ストーンドアーズ好きでも知られていて、この映画に関しても、最初はドアーズのジム・モリソンを主役に考えていたほど。ドアーズの伝記映画も撮っています。

この映画で使われるドアーズの曲は「ハロー・アイ・ラヴ・ユー」ですが、これ以外にもパーシー・スレッジの「男が女を愛する時」アレサ・フランクリンの「リスペクト」など60年代の名曲が多く使われています。

また、ウィレム・デフォー演じるエライアスが両手を挙げて死んでいくシーンなど、映画のなかの重要シーン随所で使われているのが、サミュエル・バーバーの「アダージョ」です。弦楽器のゆったりした演奏が諸行無常の響きとなって鑑賞者の心にいつまでも残るでしょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。「階級社会」、「楽園」、「戦争」、「貧困」、「娼婦」、「雑多」など、おおむねイメージする東南アジアは出尽くしたのではないでしょうか。ご紹介した映画を観れば、音楽を通して東南アジアの歴史や文化に対する認識が深まるでしょう。

苦手なジャンルもあるかもしれません。幸いご紹介した映画はどれも似た内容のものはありません。テーマが近くても、作風や見せ方がすべて違い、まさに雑多です。気になったものがあれば、ぜひ一度観てみることをお勧めします。

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MUSIC LESSON LAB
投稿者
大学では心理学、教育学を学ぶ。なりゆきと内発的動機に身を任せ、福祉やIT、運動指導などの職域を渡り歩くノマドワーカー。現在関心のある分野はパフォーマンス向上のためのライフハック。その日の脳内BGMを朝決めている。