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JUN,2017
JUN,2017

音に恋して、魅せられる。生涯かけて巡ってみたい「日本の音風景100選」

# 音楽ネタ

投稿者 :山田洋路

日本全国から、地域のシンボルとしての音環境を選りすぐった日本の音風景100選をご存知でしょうか。景観だけではなく、音にも関心を寄せてもらおうと、環境省が価値ある音環境を選出したものです。

日本の音風景100選には、自然や生き物に関するものだけでなく、祭事や産業に関するものも選ばれており、それぞれの音風景には土地とともにある自然や生活文化が息づいています。

音風景を体験するようになると、きっと音環境を大切にしていく気持ちや動きが生まれます。数ある音風景のなかから5つピックアップし、動画とともにご紹介しますので、日本各地の心に沁みる音風景をご堪能ください。

【北海道】オホーツク海の流氷

1月中下旬に網走近郊の浜辺を訪れると、静寂のなかでときどき、何か動物の鳴き声のような音が響いてくることがあります。これは、流氷が擦れ合う音です。

この神秘的な音は、日本ではこの地域でしか聴くことができない貴重なもの。シベリア大陸を流れるアムール川の淡水がオホーツク海に流入する地点で塩分濃度が薄められます。そのため、この地域では真水に近い温度で海水が凍るという現象が見られます。

この「流氷の種」は海流で南下するうちに厳寒の風に吹かれて除々に成長し、ちょうどなべ底のような形をした稚内から網走、斜里、知床半島周辺に溜まります。

流氷といえばクルーズ船が出ている網走が有名ですが、世界遺産となった知床半島に位置する斜里町もおすすめで、天候によっては海一面が流氷で埋め尽くされ、流氷がせり上がってできた「流氷山脈」が見られることもあるようです。

【千葉県】ヒメハルゼミの蝉しぐれ

日本人が、虫の声に対して独特の感性を持っていることはよく知られています。諸外国の人には「雑音」としか聴こえない虫の鳴き声を、日本人は昔から「声」としてポジティブに受けとめてきました(じつはこれは母音中心の日本語の処理メカニズムと関係しているようです)。

これを反映してか、日本の音風景100選には、昆虫に関する音風景もいくつか選ばれています。

宮城県仙台市の「宮城のスズムシ」埼玉県江南市の「荒川押切の虫の声」大阪府大阪市の「淀川河川敷のマツムシ」などです。

とりわけ多く選出されているのは蝉で、山形県山形市の「山寺の蝉」新潟県糸魚川市の「尾山のヒメハルゼミ」石川県金沢市の「本多の森の蝉時雨」、そしてご紹介する千葉県大多喜町の「麻綿原のヒメハルゼミ」があります。

大多喜町の麻綿原高原はアジサイで有名ですが、この地域のアジサイが見ごろとなる7月中旬から8月上旬にかけては、ちょうどヒメハルゼミが大合唱を聴かせてくれる時期と重なります。

ヒメハルゼミは集団で鳴くのが特徴で、山全体が鳴くような大合唱を始めたかと思えばしばらくするとピタリと全員が鳴きやみます。こうした蝉の声を夏の風物詩として感じられる日本人ならではなのですね。

【富山県】称名滝

「音風景」とは、音の環境全体として体験される世界のことで、サウンドスケープ(音)ランドスケープ(風景)の造語です。まさに、音とセットで風景を楽しみたいのが富山県立山市の「称名滝(しょうみょうだき)」です。

常在する滝では日本一の落差(350m!)を誇る称名滝から聴こえる轟音は壮絶ですが、同時に落下していく水流や飛び散る水しぶきはビジュアル的にも大迫力の絶景です。

同じ音風景100選の中では、和歌山県那智勝浦町の「那智の滝」が荘厳で神秘的なのに対してこちらでは自然のダイナミズムが感じられるのではないでしょうか。

「称名滝」という名前は、法然が滝の音から称名念仏の声を聴いたことが由来。「国指定名勝」「日本の滝100選」にも選ばれています。

紅葉の秋と新緑の初夏も見ごろですが、称名滝のスケールを体感するには、春がおすすめ。立山連峰の雪解け水が多く流れ込んで右側には称名滝よりさらに落差のある(497m!!)ハンノキ滝が現れます。

水量が増した際には、ハンノキ滝の右側に、さらに一本、ソーメン滝が現れますので同時に二本・三本の滝を楽しむことができます。冬は閉鎖されますので、開通を待ってぜひ春に訪れたいものです。

【京都府】琴引浜の鳴き砂

日本の音風景100選の選出目的には、「失われつつある音環境をまもり伝えること」があります。京都府網野町の「琴引浜の鳴き砂」は現代日本に残る貴重な音風景です。

浜辺を歩く時の音は「ザック、ザック」という音をイメージすると思いますが、かつての日本のあちこちにあった白い砂浜では、その上を歩くと「キュッ、キュッ」という音がしたようです。そんな鳴き声を奏でる数少ない場所が琴引浜です。

砂浜が鳴く条件は、砂粒に石英が多く含まれていること。そして汚れていないことです。石英が水や空気で洗われることで表面の摩擦が大きくなり、歩くときの圧力で心地よい音を発します。 ただ、鳴かせすぎたり、ゴミなどの汚れが入り混じることで、摩擦が小さくなり鳴りが悪くなってしまいます。

波が砂粒を洗うと再び鳴きがよくなりますが、海浜の工事などで海流が変わり、砂の粒度や構成成分が変わってしまうと砂浜は鳴かなくなり、回復も難しいといいます。こうした貴重な音風景を体験すると、なんとしても音環境をまもっていきたいという気持ちになるでしょう。

【愛媛県】道後温泉の刻太鼓

「万葉集」や「源氏物語」にも登場する日本最古の温泉が愛媛県松山市にある道後温泉。建物の塔屋(屋上の小屋)、「振鷺閣(しんろかく)」には鳴らして時刻を知らせる刻太鼓があります。

刻太鼓が聴けるのは一日三回、朝6時の太鼓とともに活動を開始し、正午の太鼓で一息、午後6時の太鼓で夜のモードへと。昔から現在にまで、この町の人々の生活が刻太鼓の音とともあったことがうかがえます。

歴史のある道後温泉ですが、刻太鼓が設置されたのは比較的最近(?)の明治27年(1894年)のこと。それ以降に道後温泉を訪れた、伊藤博文正岡子規夏目漱石なんかは刻太鼓の音を聴いているかもしれません。

温泉の湯につかりながら刻太鼓の音に耳を澄ませ、刻んできた日本の歴史に想いを馳せるのもよいでしょう。

【沖縄県】エイサー

最後にご紹介するのは、伝統芸能の音風景、沖縄県うるま市のエイサーです。沖縄には先祖を敬う慣習が根付いていて、旧盆の時期に踊られるエイサーは、現世に戻る祖先の霊をお送りするための念仏踊りです。また、エイサーには無病息災・家庭円満・子孫繁栄などの祈念が込められていて、青年男女が集落のエイサーを継承して踊ってきました。

地域や青年会によって、エイサーにはいくつかの形態があるようですが、うるま市には伝統的なエイサーが受け継がれています。

エイサーといえば、片面張りの手持ち太鼓「パーランクー」を細長いバチで叩く姿と音が印象的ですが、よく見ると、エイサー隊がじつに整然と役割構成されています。

大きく手を挙げクルリと回るなど、それぞれが特徴的な舞いと音を表現し、一糸乱れず隊列をなして踊る姿は、まるでなにかに憑依されているようです。その音風景を体験したなら、うちなんちゅーではない人までもが一瞬で心を持っていかれてしまうでしょう。

ちなみに、エイサーだけに限りませんが、「ドキドキする」という高揚感のことを「チムドンドン」というそうです。なんとも高揚感の聴覚・身体感覚的側面をうまく捉えた言葉ですよね。誰もが無条件にチムドンドンしてしまうエイサーの影響力にも驚きです。

まとめ

いかがでしたでしょうか?ご紹介したもの以外にも、土地それぞれに昔からある自然や生活文化が記録されたような、豊かな音風景がまだまだたくさんあります。映像や音声で体験しても音風景に内包された土地の精神を感じることはできますが、実際に音環境のなかに身を置くことで、さらに心が動くでしょう。

「訪れ」は、音が連れてくる「音連れ」が語源となっている言葉ですが、人の心をこれまでと違った場所に「連れていく」のもまた、「音」ではないでしょうか。

生活圏やその周辺にも、きっと素敵な音風景があると思いますので、新たな発見をするのもよいと思いますし、音風景を目指して地域を訪れ、そこから得られた想いを自然や文化の保全のためにも活用できたら素晴らしいです。

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投稿者
大学では心理学、教育学を学ぶ。なりゆきと内発的動機に身を任せ、福祉やIT、運動指導などの職域を渡り歩くノマドワーカー。現在関心のある分野はパフォーマンス向上のためのライフハック。その日の脳内BGMを朝決めている。